嵐山の水力発電所と止水壁
嵐山の渡月橋北側を大堰川の上流方向に100メートルほど歩くと、岸近くに白い建造物が見える。なんとこれは水力発電所!正式には「合資会社 嵐山保勝会 水力発電所」という。
【合資会社 嵐山保勝会 水力発電所】
<発電所設置までの経緯>
現在の渡月橋は、照明設備を義務づける法令施行前の1934年に架設。
その後の改修時 (1994-2000年) には、景観の重視により照明の設置が見送られる。しかし渡月橋は、観光資源であると同時に、右京区と西京区を結ぶ生活橋であり、地元住民からは交通事故や防犯面を心配する声が多くあった。
そこで地元の「嵐山保勝会」が、一級河川 桂川の流れ (自然のエネルギー) を利用した小水力発電による照明設備の設置を申請。この計画は、経済産業省・NEDOの平成17年度中小水力開発費補助金事業や京 (みやこ) エコロジーセンターの平成16年度環境先進モデル事業に採択され、また京都府・京都市・企業・小水力利用推進協議会などの支援を受けて平成17 (2005) 年に発電所が竣工された。
<小水力発電設備について>
[諸元]
・落差:1.74m(平常1.34m程度) ・最大使用水量:0.55㎥/s
・最大出力:5.5kw(平常4.3kw程度)
[水車] サイフォン式プロペラ水車
[発電機] 三相誘導発電機 200V, 60Hz
[運用形態] 低圧系統連係 ・逆潮流あり (余剰電力の売電)
[照明設備] 計60基 (LED照明器具 / 単相 100V / 容量1kw / 自然石使用)
渡月橋の北西袂には発電所を紹介する看板があり、発電量がわかるようになっている。橋の照明は夜には足元を優しく照らしてくれる。また水力発電所のすぐ北側には、大堰川 (桂川) 増水時の溢水を防ぐための「可動式止水壁」が約260mにわたって新たに建造されている。
【可動式止水壁】
2013年9月、台風18号で桂川が氾濫し嵐山周辺は浸水による甚大な被害に見舞われた。その後の河川整備にもかかわらず、浸水被害は度々発生。特に渡月橋上流左岸側での溢水被害が大きく、国土交通省はコンクリート堤防を建造する案を地元に提示。これに対し地元の人々は、「史跡及び名勝」への影響を極力抑制する方法を要望。国と地元との協議の結果、洪水時に限って起立する「可動式止水壁」が整備されることとなった。
工事は令和元年度から実施され、令和3 (2021) 年に完成・運用開始。増水時には約80cmのアルミ製止水壁が上昇して最大1.5mの壁になって越水を防ぐという。その後景観を配慮して、川側の金属部分がむき出しだった所は石積みで覆い、止水壁脇の歩道はアスファルトから石畳に変わった。
渡月橋を中心とした桂川河畔と嵐山の趣ある風景は、地元住民の人々の篤い思いと先進技術によって維持されていることを訪れる観光客にも知って欲しい。
<参考資料>
・京都嵐山保勝会 公式ホームページ
・「小水力発電による渡月橋照明灯設置事業」嵐山保勝会 (京都市), 合資会社嵐山保勝会水力発電所
・「桂川嵐山地区河川整備に関する取り組み」国土交通省 淀川河川事務所
・「京都・嵐山の「可動式止水壁」の外装や歩道一新 : 石積み、石畳のデザインに」京都新聞, 2022.4.26
・「京都・嵐山に可動式止水壁完成 : 防災と景観を両立」日本経済新聞, 2021.7.1