緑風光る!
5月14日、神護寺の「五大虚空蔵菩薩坐像」を拝観しに出かける。
前日の雨も止み、朝から晴天に恵まれた。神護寺を訪れるのは初めてではないが、「高雄橋」を渡った先から続く長い石段はとにかくしんどい。上っては休み、休んでは上り、やっと楼門が見えた時はホッとする。しかし楼門の中に二天像 (持国天・増長天) の姿がない。東京国立博物館で7月17日から始まる特別展「神護寺―空海と真言密教のはじまり」に出展されるため、すでに準備中のようだ。些かがっかり。
楼門を入ると広がる参道の風景は、テレビでお馴染み。広々とした道を通って金堂前の石段へ。この石段も映画やドラマの撮影でよく使われているが、改めて眺めると… 高い! 金堂須弥壇中央に本尊「薬師如来立像 (国宝)」、左右に「日光菩薩立像」「月光菩薩立像」(共に重文) の脇侍を安置する三尊形式。内陣まで入って間近に拝観できるのは嬉しい。
5月と10月のみ開帳される「五大虚空蔵菩薩坐像 (国宝)」が安置されている多宝塔へは、金堂からさらに奥へと続く道を辿る。
さほど広くない塔内の内陣須弥壇に横一列に安置された五体の仏像は圧巻。五色に塗り分けられた像は、それぞれ異なる表情で、彩色もよく残る。かつては立体曼荼羅を構成していたようで、その頃の様子を想像してみるのも興味深い。
清々しい若葉のモミジに囲まれた山道の景色を楽しみながら、最後は「かわらけ投げ」のできる絶景ポイントへ。眼前に広がる山並みの緑。5月はことに緑の美しい季節。視線を眼下に移せば清滝川の清流があり、その先はハイキングコースにもなっている「錦雲渓」。なんだか深呼吸したくなるような美しい景色だ。
ああ緑 翠に碧 みどりかな 谷間の川に 緑風光る (畦の花)
今回は槙尾の西明寺にも訪れる予定だったので、神護寺から清滝川沿いを歩く。モミジの緑陰の中を、鶯の声を聞き、清滝川の流れを見ながら歩くのも楽しい。川では鷺がゆったりと浅瀬を歩いている。
気が付けば朱色も鮮やかな「指月橋」が見え、橋を渡って少し石段を上ればもう「西明寺 (さいみょうじ) 」表門。石段から眺める清滝川は、澄んだ流れと川淵の濃い緑色のコントラストがモミジの若緑色に映えてとてもきれい。
神護寺・高山寺の峻厳な佇まいと比べると、西明寺は親しみやすい優しい感じのお寺。表門向かって右手には、なんとも鮮やかな赤色の春紅葉とこちらも鮮やかな若緑色のモミジが仲良く並び、参拝者を迎えてくれる。
門を入ると正面に建つのが本堂。内陣須弥壇に安置されるのは、本尊「釈迦如来立像」。運慶作という「清凉寺式釈迦如来立像」は、小ぶりながら清凉寺の「釈迦如来立像」をよく模している。また東脇陣に安置されている「千手観世音菩薩像」と「愛染明王像」も見応えあり。
本堂の西側にある客殿から本堂内を眺めてみると、本堂東にある苔庭の樹々の緑が漆黒の内陣床に映り、最近流行りの「床みどり」。また本堂と客殿の裏側にある庭池からは、河鹿の鳴き声が聞こえ、この季節ならではの風情を味あわせてもらった。
照る若葉 小暗き堂に 翠さす (畦の花)