”みわの茅の輪” くぐり
「二十四節気」の夏至も次候「菖蒲華(あやめはなさく)」に入った6月26日。薄陽さす中、奈良の「大神 (おおみわ) 神社」へ一足早く「夏越の大祓」に参拝。
二の鳥居をくぐれば鎮守の杜。ひんやりとした空気がなんとも心地良い。玉砂利の音と祓川のせせらぎが響く参道を進んでいくと、次第に厳かな気持ちになる。太鼓橋の袂にある「末社 祓戸 (はらえど) 神社」で、まずは心身を清めてから拝殿に。
石段の下から見上げれば、横木を持たず、二本の柱に注連縄を渡しただけの特徴的な鳥居がどっしり構えている。さらによく見れば、注連縄の綯い始めが向かって左側になるように取り付けられていて…「出雲大社」の注連縄と同じ向き。〆の子 (しめのこ)は一般的なものとは少し異なり、紙垂は無し。
「日本最古の神社というだけに、鳥居も独特だな」と思いながら石段を上り切ると、目の前には「みわの茅の輪」がある。大神神社の茅の輪は、「三ツ鳥居」同様に三つの輪から成り、これもまた独特。これまで京都で見た「茅の輪」とは随分に違うので、傍に立つ 「夏越しの茅の輪くぐり」 の解説板を一読。
平安時代後期に藤原清輔が書いた歌学書 『奥儀抄』 には、「三輪の明神は社もなく祭の日は茅の輪を三つ作りて岩の上におきてそれをまつる也」とあり、古来より三つの茅の輪が作られていたようだ。また 『三輪大明神縁起』 に記される「杉・松・榊の三木は神霊の宿り給う霊木である」の故実に因んで、各々の輪の上には向かって左から順に、榊・杉・松が掲げられている。くぐり方は、中央 杉の輪から右 松の輪へ、そして中央の輪の前に戻る。次に再度中央の輪をくぐって左 榊の輪へと回り、最後に中央 杉の輪から拝殿へと直進。
"茅の輪くぐり” の際の 唱え詞(となえことば) については、特に書かれてはいなかったので、以下のように心の中で唱えてみることに。
水無月の 夏越しの祓 する人は 千歳の命 延ぶと云ふなり (『拾遺和歌集』巻五 詠み人知らず)
思ふこと みな尽きねとて 麻の葉を 切りに切りても 祓へつるかな (『後拾遺和歌集』巻二十 (雑六) 和泉式部)
宮川の 清き流れに 禊せば 祈れることの 叶はぬはなし (出典・詠み人不明)
蘇民将来 蘇民将来
唱え詞は地域や神社によって様々なようなので、それぞれの神社の参拝の仕方に従うのが良いのだろう。なんとか滞りなく “茅の輪くぐり” を終えて息災を祈願できたので、最後に 「茅の輪守」 を授与していただく。
三輪山に 鎮まる神に 祈りせし 夏越の祓 心さやけし (畦の花)
帰り道、せっかく「そうめん発祥の地」三輪を訪れたのだから昼食にはそうめんをと思い、万葉まほろば線の踏切近くにある 「万直し本店」 に入る。冷やしそうめんと柿の葉寿司のセットを注文。ひんやりと冷たいそうめんは、とても細くて麺つゆによくからみ、シンプルな味ではあるが美味しい。柿の葉寿司は、柿の葉の香りが程良く移り、小ぶりなのも嬉しい。
ところで、店名 「万直し」 の読み方や意味が気になったので、帰宅後調査。京ことばには、「まんがわるい」というものがあり、その意味は「運・縁起が悪い」。「万直し (まんなおし)」 は、「不運を直して幸運を願う行為、縁起直し、景気づけ」といった意味で、西日本 (主に関西以西) でよく使われる方言らしい。「間直し」あるいは「真直し」とも表記。
さらに、東大寺の二月堂裏参道の近くには、その名も「まんなおし地蔵尊」という石に刻まれた古いお地蔵さまが祀られているとか。「まんを直すお地蔵さまで、悪い巡り合わせを直し、運気を上げてくださるお地蔵さま」と信仰されているらしい。
何気無く立ち寄ったお店の名が「万直し」とは、今年後半も元気で頑張れそうな気がして、少しばかり心が晴れやかになった。
<参考資料>
・ 大神神社 リーフレット 「「夏越しの茅の輪くぐり」 について」
・ " 運気改善 「まんなおし地蔵」さま " 「奈良公園 Quick Guide」 Pick Up Info, 2020.2.27
・ " まんなおし地蔵尊 : 奈良市の東大寺 “ ディスカバー! 奈良 第2回 2017.1.19 奈良まほろばソムリエの会 (田原敏明 著)