“半夏生” と “ハンゲショウ”
先日、大神神社を訪れた折のこと。JR三輪駅 の前の広場で、 「ハンゲショウ」 が正に「半化粧」になっているのを見かけた。"水辺でもないのに" と些か驚きながら、七十二候の「半夏生」が近いことを思い出す。
今年2024年の「半夏生」は7月1日。「半夏生」は「はんげ しょうず」と読み、二十四節気の「夏至」にあたる期間を三区分した最後の期間で、夏至から数えて11日目から七夕までを指す。その名の由来は、この時期に 生薬となる「ハンゲ (半夏)」が生える からということらしい。
ところで、生薬 「ハンゲ」 って? 植物としての名前は「烏柄杓 カラスビシャク, 学名:Pinellia ternate Breitenbach )」。サトイモ科の多年草で、日本全国で日当たりのよい畑や原野に生育する。このカラスビシャクの塊茎 (球茎) のコルク層を取り除いて乾燥させたものが、生薬「半夏 (ハンゲ : Pinelliae tuber)」で、鎮咳や去痰作用があるとして漢方に利用されている。ミズバショウのように花が「仏炎苞 ブツエンホウ」に包まれているので、その形が柄杓に例えられて和名「カラスビシャク」と呼ばれるようだ。また農家の女性達が、生薬「ハンゲ」として利用されるカラスビシャクの球茎を集め、生薬の仲買人などに買い取ってもらって小遣い稼ぎをしたことから「へそくり」と呼ばれていたとも。
さて、では植物 「ハンゲショウ」 は?
ドクダミ科の多年草で、学名 “Saururus chinensis"。雑節「半夏生」の頃に、白く小さな花が細長い穂状に咲くことから「ハンゲショウ」と呼ばれるようだ。花序が直立し始めると、花の近くの葉の一部が白くなることから「片白草(カタシロクサ)」とも呼ばれ、「半化粧」と表記されることもある。学名の “Saururus" は、ラテン語で「トカゲの尻尾」の意味で、確かにユラユラと揺れる花序は小さなシッポに似ている。日当たりの良い湿地や水辺に群生し、「茶花」としても古くから親しまれてきたが、最近では自生地が減少し準絶滅危惧種や絶滅危惧種に指定されている地域もあるという。
「ハンゲ」同様に、「ハンゲショウ」も生薬「三白草 (サンパクソウ)」として小便不利、むくみ、脚気などに用いられる。
奈良県では 「ハンゲショウ」 は希少種に指定されている。「奈良県景観資産」 である宇陀郡御杖村の「岡田の谷の半夏生園」では、7月上旬から下旬にかけてその「ハンゲショウ」の美しい群生を見られるとのこと。
三輪駅前の 「ハンゲショウ」 も、花の近くの葉がきれいに白くなり、緑色とのコントラストが涼しげ。花の近くの葉が白くなるのは、昆虫に受粉の手助けをしてもらうために開花場所を知らせていると言われ、花が終わる頃には再び緑に戻るらしい。自然の営みは不思議で興味深い。
また 「ハンゲショウ」 の横には、濃いピンクのセンニチコウや薄紫色のアガパンサス (紫君子蘭) も植えられていて初夏らしい装い。お世話をする方達の優しい心が伝わってくるようだ。
<参考資料>
・ 「今月の薬草 カラスビシャク」 公益社団法人日本薬学会
・ 「ハンゲショウ」 熊本大学薬学部薬用植物園 植物データベース
・ 《森の植物の歳時記》 [74] 【ハンゲショウ(半夏生 半化粧)】 廣畠眞知子 著 (2024年のニュース, 公益財団法人 ニッセイ緑の財団)