スイレンと夏萩と:大原野散歩 (西京区大原野)

京あれこれ,自然漫歩

スイレンとフシギの木と
 6月初旬、スイレンが咲き始めた 「大原野神社」 に参詣。二の鳥居から緑に囲まれた参道をまっすぐ進んで行くと、右手に見えるのが 「鯉沢の池」 。池一面にスイレンの葉が広がり、そこここに清楚な白い花が咲いている。池の中島にかかる朱色の太鼓橋が、緑によく映える。最近では、印象派の画家モネの絵「睡蓮」に似ている風景として「モネの睡蓮の池」と呼ばれたりするらしい。以前訪れたのは5月も半ば頃だったので、池の石の上で亀が気持ち良さそうに甲羅干しをしている光景が、なんとも微笑ましかった。今回は、茶店「春日乃茶屋」の近くでのんびり水遊び中のカモ発見。

大原野神社参道
鯉沢の池

 

 

 

 

 

 「大原野神社」 から「勝持寺 (花の寺)参道に抜ける近道は、鬱蒼とした木立の中にあり、途中に小さな川 (沢の流れ?) にかかるこれも小さな橋がある。「この森はいったいいつ頃からあるのだろう?」と周りを眺めながら歩いていたら、面白い木を発見!根元近くから幹が二つに分かれ、上の方はさらに枝分かれしながらも、仲良く寄り添うように立っている。カシの木?とても大きく、幹には蔓性植物がまるで文字を描くようにからまって… 不思議な魅力がある。森閑としたこの森の空気を呼吸していると、自分が自然の一部なんだって感じる。

 

フジバカマ園

フジバカマ園と夏萩と
 帰りがけ「南春日町バス停」近くにある 「フジバカマ園」 まで足を伸ばしてみた。周辺一帯には田畑が広がり「日本の原風景」のような長閑な場所。
 「フジバカマ」は古代中国から日本に渡来・帰化したと最近までは考えられていたが、調査の結果、中国大陸のものとは別に、日本に自生するものがあることがわかってきたという。この日本自生の「フジバカマ」は、現在では国のレッドデータブックで「準絶滅危惧種 (NT)」、京都では「絶滅寸前種」に指定されている。その「幻の花」とも言える日本原種の「フジバカマ」が、1998 (平成10) 年に大原野の灰方明治池近郊で発見された。その一株を、地元の農家や住民の人達で組織する「なんやかんや大原野」を中心として、地域ぐるみで大切に育てられて 「フジバカマ祭」 を開催するまでになったという。
 「フジバカマ園」 に植えられている「フジバカマ」は、すくすくと元気に育っているようで、秋の開花が楽しみ。近くの用水路の傍では「夏萩」(ミヤギノハギ) が紅紫色の可憐な花を見事に咲かせ、枝垂れた枝が風に揺れている。こんなにも早く咲く萩を見るのは初めてで、見惚れることしばし。白い蝶がやって来て、萩とまるで踊るかのようにふわりヒラリと飛び回っているのを見るのも楽しい。

夏萩

 「ミヤギノハギ (宮城野萩)」は宮城県の県花で、宮城県の萩の名所「宮城野」が原産地かと思っていたが、どうもそうでもないらしい。古代より「宮城野」が「歌枕」として和歌に詠まれてきたので、花の美しさを表すための呼び名とも言われる。
 『源氏物語』の「桐壺」の章には、
  宮城野の 露吹きむすぶ 風の音に 小萩がもとを 思ひこそやれ
の歌があり、また漂白の旅を続ける中で多くのみちのくにまつわる和歌を詠んだ西行にも、次のようなものがある。
  萩が枝の 露ためず吹く 秋風に をじか鳴くなり 宮城野の原 (山家集 秋歌 )

 昨秋は、「源氏藤袴会」が主催する「藤袴祭」に行ったが、今年は紫式部や西行にゆかりの深い「大原野神社」や「勝持寺」のある大原野で、日本古来の「フジバカマ」と平安人の憧れた「ミヤギノハギ」が咲くのを見てみたいと思った。

   爽風に 夏萩ゆれる 大原野  (畦の花)

<参考資料>
・  「花とみどりの相談所だよりQ&A」  京都市都市緑化協会    ・ 「とっておきの京都プロジェクト」 京都市観光協会
・  「なんやかんや大原野」 website       ・  『山家集』 西行 著, 佐佐木 信綱 校訂 新版 岩波文庫
・  『源氏物語』 第1巻  大塚ひかり 全訳  ちくま文庫