2年がかりの “六地蔵めぐり”
8月22日・23日は 『六地蔵めぐり』 の日。昨年、ふとしたきっかけで、 『六地蔵めぐり』 当日に「常盤地蔵」が祀られる「源光寺」に参拝し「お幡 (はた)」をいただいた。これもご縁かなと、「六地蔵」参拝を思い立つ。昨年は六地蔵発祥の地である「伏見六地蔵」(大善寺) と、「山科地蔵」(徳林庵) を参拝。その折に 『六地蔵めぐり』 の日以外では地蔵尊が非公開であったり、「お幡」を授かるのが難しかったりすることがわかったので、残る三ヶ寺は今年の 『六地蔵めぐり』 の日まで待つことにした。
8月22日 (木)、相変わらずの暑い日だったので、夕方から夜にかけて参拝をすることに。(『六地蔵めぐり』の2日間のみ参拝時間は午前5時〜午後10時)
【桂地蔵 (地蔵寺)】西京区桂春日町
まずは丹波・山陰街道の入り口にある「桂地蔵」(浄土宗) に参拝。阪急「桂」駅から徒歩10分程の場所にあり、近くには『桂離宮』がある。『六地蔵めぐり』 の日には、近くの住宅街に露店が並び、夏休み中の親子連れで賑わっている。
「山陰街道」に面する山門を入ると、参道は真っ直ぐ「地蔵堂」に続く。こちらの地蔵尊は、一木の最下部を用いて造仏され、像高2.6mと六地蔵の中で最も大きいことから「姉井地蔵菩薩」と言われる。右手に錫杖、左手には宝珠を掲げて緑色を基調とした衣を纏う。顔や身体は白く (胡粉?) 塗られ、きりっと結んだ口元が印象的なお地蔵さま。
参道の左手には、六地蔵が浮き彫りにされた石碑を祀る「水向所」。多くの塔婆が「水向供養」され、熱心に手を合わせている参拝者の姿も見かける。また「水向所」のある垣根沿いには、子安地蔵・水子地蔵など多くの石の地蔵尊や宝篋印塔、古い石仏が所狭しと祀られており、まさに「地蔵寺」。
山門入ってすぐの左手には舞台があり、赤い提灯が軒下に掲げられている。22日午後7時頃より「桂六斎念仏保存会」による「六斎念佛」の奉納があるようだ。
[ 御詠歌 ] 信心は 月の桂の 地蔵尊 六つの巷の 闇路照らしぬ
【鳥羽地蔵 (浄禅寺)】南区上鳥羽岩ノ本町
西国街道 (鳥羽街道) の入り口にある「鳥羽地蔵」(浄土宗西山禅林寺派) には午後6時過ぎに到着。住宅街を走る市バス18を「地蔵前」バス停で降りると、目の前に地蔵堂への山門。寺院の面する道は、平安京時代の「鳥羽作道」(現在の千本通) の沿道とされる。
「鳥羽地蔵尊」と大きく書かれた幟旗が門前に掲げられ、その先に六角堂の地蔵堂が見える。参道左手には「観音堂」があり、こちらで黄色の「お幡」が授与される。こちらの地蔵尊も像高約2.3mと大きい。白いお顔の小さな口元に紅はさされず、どことなく子どものような愛らしさを感じる。右手に錫杖、左手に宝珠を持ち、円輪光背にも宝珠が付く。金色に輝く瓔珞や衣が煌びやか。
地蔵堂の北側に「水向所」があり、そこには覆屋の中に二躰の石の地蔵尊が祀られている。向かって右側の地蔵尊は左手に幼子を抱き抱え、右手に錫杖を持つ。優しげな目には涙のような…水子地蔵尊だろうか。一方左側の地蔵尊は、蓮台に半跏踏下で坐しているあまり見ない像容。どちらも寄進されたもののようだが、きれいに整えられているのが清々しい。
鳥羽地蔵は、文覚上人と袈裟御前にまつわる伝承ででも知られ、境内には袈裟御前の首を埋めたとされる塚「恋塚」があることから「恋塚浄禅寺 (こいづかじょうぜんじ)」とも呼ばれる。また 『六地蔵めぐり』 の時のみ、本堂のご本尊「阿弥陀如来立像」や観音堂の「十一面観世音菩薩立像」(平安時代作, 京都市指定文化財) も拝観できる。
午後7時頃より「上鳥羽橋上鉦講中」による「六斎念佛」の奉納が行われるということで、観音堂前の休憩所には上演の開始を待つ人々が集まり始めている。揃いの浴衣姿の講中の人達は、準備に忙しそうだ。帰りがけに振り返ると、青い色に夕日の赤が映る日没間際の空に、5色の吹流しが風にたなびいていた。そして寺院を護るようにして立つ大きな楠の存在感!一体いつ頃からこの地域を見つめているのだろう…?
[ 御詠歌 ] 雨風も いとわで渡す 鳥羽の堂 御法の船の 棹に任せて
【鞍馬口地蔵 (上善寺)】北区鞍馬口通寺町東入ル
すっかり日も暮れた午後8時頃。『六地蔵めぐり』 も最後の六ヶ寺目、鞍馬街道 (若狭街道とも) 入り口にある「鞍馬口地蔵」(浄土宗知恩院派) を参拝。地下鉄烏丸線「鞍馬口」駅から歩いて5分ほど。鞍馬口通と寺町通が交わる場所にあり、門前の鞍馬口通をさらに東に進めば鴨川に架かる「出雲路橋」。この辺りは鞍馬寺参拝の入り口として「出雲路口 (鞍馬口)」にあたった。
「第一番六地蔵尊」と刻まれた大きな石標がある山門近くまで行くと、境内から鉦や太鼓の音が聞こえてくる。どうやら「小山郷六斎念仏保存会」による「六斎念佛」が始まっているようで、境内に設られた舞台では保存会の人達が上演中。まわりでは観客が楽しそうに観覧し、露店も数軒出て賑やかだ。
鞍馬口の地蔵尊は、元は保元年間 (1156-1159) に鞍馬街道入り口近くにある御菩薩池 (深泥池 みぞろがいけ) の畔に祀られた。しかし明治時代の廃仏毀釈によりこの地に遷されたという来歴を持つ。その経緯から「深泥池地蔵」とも呼ばれる。2016年に新たに建立された六角堂の「地蔵堂」内は一際明るく、地蔵尊のお顔がよく見える。すらりとした姿に茶色系の衣をふんわりと纏い、右手に錫杖、左手に宝珠をそっと持つ。その左手首には御縁を結ぶ5色の糸が巻かれ、糸の先は白い布で地蔵堂前に設けられた祭壇に結ばれている。白い布には数え切れないほどの古い「お幡」が結ばれていて、地蔵信仰の根強さが窺える。優しく微笑んでいるような穏やかな表情は女性的で、「姉子地蔵」と称されるのも頷ける。
「地蔵堂」の南隣にある宝形造の「観音堂」(1918年建立) は旧地蔵堂で、現在は古い観世音菩薩立像が祀られている。また本堂に祀られる御本尊「阿弥陀如来坐像」は、奈良時代に行基によって造仏されたと伝わる古仏。どちらも 『六地蔵めぐり』 の時のみ拝観できるようで、貴重な機会を得られた。
帰りがけに今や真っ最中の「六斎念佛」をしばし拝見。「小山郷六斎念仏保存会」はいわゆる「芸能六斎」を承継しており、偶然拝見したのは近年復活したという演目『猿まわし』。猿まわし役の演者の軽妙な語り口に合わせて舞台狭しと動き回る猿役の演者が、なんともコミカルで、観客から拍手や笑い声が起こった。
[ 御詠歌 ] 宿替へて 御菩薩 (みぞろ) もいまは 鞍馬口 入りくる人を 導きにけり
2年がかりでやっと揃った6枚の「お幡」を眺めながら、暑い夏の日に一日で『六地蔵めぐり』は結構キツイと実感。しかしそれぞれの寺院での思い出が「お幡」に残っているようで、得難い体験だった。
<参考資料>
・ 「京都に乾杯」 website ・ 「京都風光」 website ・ 『京都六地蔵霊場』 ニッポンの霊場
・ 『京の六地蔵めぐり (12.8.23)』 NPO法人京都観光文化を考える会・都草