“朱雀の庭” にアサギマダラ舞う
下京区の梅小路公園にある 「朱雀の庭」 で開催されていた (9/27〜10/14) 「藤袴と和の花展」を訪れてみた。今年で14回目というが、そもそも「朱雀の庭」に足を踏み入れるのも初めて。2階の入場口から庭園内に入ると、開放的で広々とした景観が眼前に現れて少々驚いた。街中にこんな自然豊かな空間があるとは…。
まずは「フジバカマ」
お目当ての藤袴は、「緑の館」に面した浅池「水鏡」に100鉢ほどが展示されていた。普段は入れない池に仮設道が設けられ、京都自生種の藤袴の育成に携わっている多くの団体や企業、そして個人の方々が大切に育てた藤袴を間近に見ることができる。中でも目をひいたのが「冷泉家の藤袴」。藤原定家の流れを継ぐ冷泉家の庭に生える自生種から分けてもらった挿し芽を、京北の和の花グループが育ててきた貴重な系統という。
藤袴の香りに誘われて、あたりは色々な蝶や虫たちが飛び交う。熱心に写真を撮る人も … でも、あの旅する蝶「アサギマダラ」は、残念ながら姿を見せない。
和の花と希少種と
アカマツ林の遊歩道には、京都周辺の希少植物や『源氏物語』に登場する秋の草花 (秋の七草も) が展示され、名前しか知らない草花を直に鑑賞できたりと、楽しいひと時。紫色の小ぶりで可憐な釣鐘草 (イワシャジン) と白いマーガレットに似たハコネギクの寄せ植えには、山の岩場の秋の風情がある。その近くにあるノコンギクに目を遣れば、幼い頃に野原で摘んだ野菊のことを思い出す。また初めて見るトウテイランは、少しルピナスに似ているが、オオバコ科の花。日本固有種で京都府の絶滅危惧種に選定されている。よく見ると小さな花ひとつひとつが薄紫の蝶のようで愛らしい。
マコモの「茅の輪」
少し疲れて休憩に寄った覆屋で、興味深いものを発見!覆屋の柱の間に「茅の輪」が二つ設置されていて、アカマツ林と堤、そして池のある風景を丸く切り取って見せてくれる。8月の「こども自然観察会」で、保護者と係員の方々が協力して「マコモ」を使って作られたとのこと。
マコモ (真菰) はイネ科の大型の多年草で、本来は沼や川の岸辺に群生し、古事記や万葉集にも登場する植物。出雲大社で毎年6月1日に行われる「涼殿祭 (すずみどののまつり)」が「真菰の神事」とも呼ばれるなど、真菰は「神の宿る草」として古来より神社の「しめ縄」や「茅の輪」の材料とされてきた。しかし、河川や沼地の環境変化により真菰も減少しているらしい。
「茅の輪」の傍には、「いのちの森」の田んぼで子どもたちが田植えをして収穫した稲が展示されている。子どもたちが工夫を凝らして作った鳥除けグッズも飾られ、街中のビオトープで貴重な体験が続けられていることを知った。
アサギマダラ飛来!!
帰り際、見納めにと再度藤袴を見に行った時のこと。なんと 「アサギマダラ」 が飛来しているのに遭遇。淡い浅葱色のまだら模様をしたアサギマダラは、ふんわりと軽やかに藤袴のまわりを舞っている。目敏く見つけた人達がカメラのシャッターを押し始めるが、仮設道からは離れているので望遠でなければ撮影は難しい。それにしても、あんなにも華奢に見えるのに遥か遠くまで旅する力はどこに潜んでいるのだろうか。たおやかに舞う姿を見ていると、生きるための力強さを感じる。
出会えたのはたった一頭だけれど、今年もアサギマダラの飛ぶ姿を見ることができて満足!しかし、気象現象を読み、適温を求めて移動するとされるアサギマダラにとって、今年の猛暑は移動を遅らせる要因になっているのかもしれない。水尾のフジバカマ畑でも、今年は飛来が少ないという話を耳にした。楽しさと同時に、地球の環境変化にも思いを馳せることになった 「朱雀の庭」 訪問だった。
そよと吹く 風の運ぶ香 藤袴 旅する蝶も ふわり舞い来る (畦の花)