短かき秋去り冬来たる

京都・寺社,京あれこれ

 今年 (2024年) は全国的に猛暑日が過去最多となり、京都では10月に入っても真夏日を記録。これまでであれば、9月になれば少しずつ朝夕の涼しさに秋の気配を感じ、10月には長袖の衣服が恋しくなり、11月ともなれば「そろそろ紅葉の季節かな」と深まり行く秋を楽しんだもの。しかし、今年は紅葉の季節が訪れるのが遅く、紅葉のイベントも軒並み延長、再延長と12月にまでずれ込んだ。
 そんな短かい秋も終わり、あっという間に初雪。それでも自然はきっちりと美しい秋の景色を見せてくれた。そんな秋の思い出の引き出しを開けて… 。

【神無月】
「御香宮」の華麗な神輿
 秋は神社の祭礼のシーズン。10月初旬に参拝した伏見の「御香宮 (ごこうのみや) 神社」は、9日間にわたる神幸祭 (10月5日〜13日) の最中。平日の午前中にもかかわらず参道にはずらりと露店が並び、祭礼の大きさを思わせる。祭礼期間中のみ特別公開される日本一重いという「千姫神輿」は、桃山様式の荘厳華麗な本殿・拝殿とともに煌びやか。有名な「花傘まつり」や「神輿巡行」は見られなかったが、それでも十分に「祭りの秋」を感じた。

露店並ぶ参道
千姫神輿

 

「醍醐寺」で国宝めぐり

国宝 五重塔
弁天堂

 桜の葉が紅葉し始めた下旬。醍醐寺霊宝館の特別展に訪れる。お目当ては、元は上醍醐の薬師堂のご本尊であった国宝「薬師三尊像」。現在は山を下りて平成館に安置されている。平安前期作の薬師如来坐像は、どっしりと重厚感ある大きな仏像。対して両脇侍の日光菩薩・月光菩薩は華奢なお像。同じく平安時代に建造された京都府下最古の「五重塔」も国宝。上層に行くに従って少しずつ小さくなる屋根は、軒がわずかに反り返っている。そのためか、下部はしっかりと大地に根を張りつつも、上層は空を目指してスッと伸びていくようなリズミカルな軽やかさを感じさせる美しい塔。

弁天池
無量寿苑

 上醍醐への入り口近くにある弁天池。中島の朱塗りの弁天堂には、同じく朱色の反り橋が架けられ、水面に映る姿には目を奪われる。「紅葉が進んでいればさぞかし…」とちょっぴり残念。弁天池の奥には「無量寿苑」という美しい苔庭が広がり、池の水源となる滝と水の流れが静寂の世界を見せてくれた。

 

 

【霜 月】
嵯峨野を歩く

清凉寺池遊式庭園
清凉寺 大方丈前庭

11月も半ば。桜やハナミズキの紅葉が進み、イチョウも少しずつ黄葉し始める。

久しぶりに清凉寺のお釈迦さまに会いに行こうと嵯峨野まで。NHKの『光る君へ』効果か、清凉寺は普段より拝観者が多いように思われた。本堂北側にある弁天堂を中心とした池遊式庭園は、秋には殊に趣があり、渡り廊下から眺める小倉山の景色も良い。池の川中島や大方丈のモミジは朱く色づき始め、針葉樹や苔の緑によく映えている。

後亀山天皇嵯峨小倉陵

 清凉寺を後にして鳥居本の八体地蔵尊の三叉路に向かう途中、「後亀山天皇嵯峨小倉陵」 に立ち寄る。「化野念仏寺」方面への道は、観光客で賑わっているが、その大半は海外からの観光客。陵の参道入り口からは小倉山が望め、ススキの白い穂、竹林の緑そして紅葉のコントラストが思いがけずとてもきれい。静かな参道を進んでいくと、山の麓は紅 (黄) 葉に彩られ、竹林の奥からはどうやら猿が喧嘩している声が聞こえてくる。

 

 

宗教文化ミュージアムのアプローチ
広沢池

散策の最後は広沢池。畑の畔では、盛りを過ぎたコスモスが、チラホラと白やピンクの花を咲かせて風に揺れている。周囲の山は緑の中に赤や黄色を纏い、秋が進んでいるのを感じる。児神社の向かいには、佛教大学の 「宗教文化ミュージアム」 がある。時折利用させてもらっているが、建物までのアプローチが季節折々の趣があり、好きな風景のひとつ。

 

水掛不動尊前の参道
九所明神参道前の鳥居と五重塔

仁和寺界隈
 お散歩コースの仁和寺11月中旬、そろそろモミジも紅葉し始めたかなと足が向く。
 境内西北にある水掛不動尊に通じる小径は、早春には紅白の梅の花、秋にはモミジの紅葉が見られる。修学旅行のシーズンとあって、境内は中学生や高校生のグループで賑わっていた。五重塔東側、九所明神の参道付近。普段は人のあまりいない場所だが、この日は近所の保育園の子ども達が落ち葉拾いをしていて、元気な声が響く。

「楽しそうだな」と思いながら五重塔近くまで行くと、あれ?十月桜?目の前には、白っぽいピンクの花がポツポツと咲く桜の樹。仁和寺は遅咲きの「御室桜」が有名だが、実は結構いろいろな種類の桜が咲く。名札には「八重桜」とあった。

蓮華寺の石仏


さて、次は仁和寺東門を出て、お向かいの五智山 蓮華寺。境内南 (仁和寺駐車場の北側) に安置される大きな石仏「五智如来座像」は、いつ拝見しても味わい深い。石仏の傍にある桜の樹は、そろそろ紅葉から落葉へと向かっているようだが、陽射しを浴びて秋色模様。

 

 

嵐電宇多野駅で少し休憩。「嵐電沿線フジバカマプロジェクト」で、宇多野駅には京都原種のフジバカマが地植えされたが、この夏の猛暑のせいか残念ながら開花を見ることはほとんどなかった。しかし宇多野駅付近は自然が豊かで、春の桜、秋には紅葉と四季の移ろいを感じさせてくれる。モミジの紅葉はまだまだだが、ホームの草むらで一輪の桔梗がきれいな紫色の花を咲かせていた!近くには野菊 (ノコンギク) が咲き乱れ、桔梗と紫色のデュエット。

「弥勒菩薩」に逢いに:広隆寺

講堂

12月もすぐそこ。奈良 中宮寺で御本尊の「菩薩半跏像 (伝 如意輪観音)」を拝観して以来、姉妹のようによく似た広隆寺「弥勒菩薩半跏思惟像」にまた逢いたくなって参詣。今年広隆寺は、「講堂」と国宝「桂宮院」の修理が行われていた。法隆寺「夢殿」に似せて造られたという八角円堂の「桂宮院」は通常非公開なので、修理完了に合わせて特別公開されたらうれしいのだが…。

「弥勒菩薩」が安置される 「新霊宝殿」 では、京都では少ない飛鳥・天平・藤原といった古い時代の仏像を間近に見ることができる。拝観者も少なくて、ゆっくりじっくり仏像と向き合える静かなひととき。「弥勒菩薩」の前には、畳表の長椅子が置かれているので、正座して参拝もできる。
「新霊宝殿」の前庭では、黄葉したイチョウの葉が庭を黄色に染めている。弁天社の池の畔の黄色の石蕗の花、楓の朱そして苔の緑がイチョウの黄色とコラボしてステキな秋の景色を見せている。弁天社前のピンクと白のサザンカは、今年もきれいに咲いていた。