奈良「秋の特別開帳」参詣 (2024)

奈良

【秘仏愛染明王と大和十三仏霊場参拝:西大寺】
 やっと秋らしくなった11月初旬。秘仏「愛染明王」 の秋のご開扉が行われるのに合わせて、「大和十三仏霊場」第二番札所の「勝宝山西大寺」に参詣。
 近鉄大和西大寺駅南口から歩いてすぐの西大寺は、天平時代に創建されて広大な寺域を有する南都七大寺のひとつだった。しかし時代の流れの中で多くの伽藍を失い、現在もかつての伽藍の発掘調査が行われている。

 東門前の道路は結構交通量が多いが、一歩境内に足を踏み入れると徐々に静けさが心を満たす。今年は紅葉が遅く、境内の木々もまだ青々としている。

本堂

 東門から「四王堂」「不動堂」の前を通り過ぎて、まずは「本堂」に向かう。寄棟造、本瓦葺の堂々とした本堂は、とても広い空間を持つ。内陣中央の須弥壇に、ご本尊「釈迦如来立像」 が祀られる。鎌倉期に荒廃していた当寺を復興した興正菩薩叡尊が、京都嵯峨釈迦堂 (清凉寺) の釈迦如来立像を模刻させたものという。立派な宮殿厨子の中で穏やかに微笑むご本尊は、清凉寺のお釈迦さまにとてもよく似ている。本堂の南には、室町時代に兵火で焼亡した「東塔跡」の基壇。基壇の大きさから、当時の塔がどれほど立派なものだったのかが推し量られる。

 

東塔跡
愛染堂

 その「東塔跡」のすぐ西にあるのが「愛染堂」。江戸時代に京都の近衛家邸宅の御殿を寄進・移築されたという建物は、寝殿造風で建物内は折上格天井の重厚な雰囲気。中央内陣の小ぶりな厨子の扉が開けられ、そこに秘仏の 「愛染明王」 が安置されている。像高約30㎝と小ぶりなお像で、憤怒の面相、真紅の体からは何かしら慈しみのようなものも感じられる。「愛染堂」前には、樹齢700年という菩提樹の古木が青々とした葉を茂らせ、御堂を見守っているようだ。

 

青瀧権現社

南門近くには池があり、その中島には「青瀧権現」の朱のお社が建つ。真言系の寺院だけに、弘法大師空海と縁の深い「善女龍王」が祀られている。池近くの庭で、淡いピンクの山茶花が咲き始めていた。そろそろ自然は冬支度かな?

 


南の塀沿いには閼伽井戸があり、その横に西国三十三所観音霊場の石仏がずらりと並ぶ。

一際大きく新しい地蔵菩薩と共に、秋の陽射しを浴びて静かに衆生の世界を眺めているような … なんだかとても心地良い空間。

 

 


【夢殿「救世観音」に逢いに斑鳩へ】
 秋も深まり始めた頃、法隆寺の秋の特別開扉「夢殿 秘仏・救世観音菩薩立像」(10月22日~11月22日) に参詣。
 はるか以前に斑鳩を訪れた時、偶然にも「夢殿」公開中で、初めて拝観した「救世観音菩薩立像」の不思議な微笑みにとても惹かれた。そのせいかどうか、法隆寺の伽藍の記憶はほとんど無く、今回改めてゆっくりと境内を拝見。

 

夢殿

 東院伽藍 にある八角円堂「夢殿」には、かつては入ることができたと記憶するが、現在は南側の入り口前から堂内を拝観。南から差し込む陽射しで、薄暗い堂内に安置されている「救世観音菩薩」の細部まで拝観することは難しい。しかし聖徳太子等身とされるその姿形は、今も神秘的な魅力を放っている。

 


 飛鳥時代に創建された中門そして回廊に囲まれた西院伽藍の空間には、今も古代の歴史が息づいているようだ。飴色の古いエンタシスの柱の回廊は、連子窓が切り取る外の庭の色彩と白壁が創り出す景色がなんとも趣深い。斑鳩の空に堂々と聳える「五重塔」は、軒の反りはあまり無いが、上層に行くにつれて小さくなる屋根のため安定感と同時に上を目指す勢いのようなものを感じる。

大講堂
五重塔
回廊
連子窓の向こう側

 

 

 


 

 

西円堂
西円堂からの眺望

 今回初めて拝観の「西円堂」「西院伽藍」の西にある「三経院」横の道を歩いて行くと、石段の上に八角円堂の「西円堂」が見えてくる。堂内には丈六の「薬師如来坐像」を中心に、千手観音像や十二神将像などが安置されている。堂内へは立ち入れないが、なかなか見応えあり。小高い場所にあるので、「西院伽藍」や薬師三尊像を安置する「大講堂」の北に位置する「上御堂」(毎年11月1日~3日のみ特別開扉) を眺望できる。芒が群生し、回廊外側の庭には楓が紅葉して、移り行く秋の気配がそこかしこに感じられる。

弁天池

 「西室」方面に足を運ぶ人は意外に少ないので、「三経院」前の「弁天池」は、ゆっくり休憩するのにぴったり。

  いにしへの 奈良の都の 俤を 刻む土塀も 秋色纏う  (畦の花)

 寺域の広い法隆寺は、隈なく見て回ろうとすると時間がいくらあっても足りない。いつかまた違う季節に訪れてみよう。