『英語で味わう万葉集』

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アイルランド生まれの日本文学研究家であるピーター・J・マクミラン(Peter MacMillan)が、『万葉集』の中から100首を選び英訳。さらに現代語訳とともに歌人や歴史、文法等の解説も付されている。
例えば柿本人麻呂の  「東の 野にかぎろひの 立つ見えて かへり見すれば 月傾きぬ」  の歌は
  " When I look eastー   the light of daybreak   spilling out over the plain.
    When I look backー   the moon crossing to the west. “
のように英訳されている。
思えば年号が「令和」になると発表された頃、書店では『万葉集』関連の書籍が平積みにされてよく売れたとか。しかし実際のところ、多くの日本人にとって『万葉集』は、学校教育で少しばかりかじっただけというのが実情ではないだろうか。かく言う私自身もそのうちの一人なのだが…。
この本を手にしたのは、英語を母語とする著者が、一体どのように『万葉集』を鑑賞し、はたまた英訳するのか、その興味からでしかなかった。だが読み進むうちに、『万葉集』の面白さというか奥深い味わいに次第にハマってしまった。古代飛鳥の人々の大らかさや飾らない愛情表現が、優れた表現技法で謳われていることを改めて知るとともに、異なる文化を持つ国の言葉「英語」への翻訳の苦労や工夫も知ることができた。
著者は、「万葉集の世界へ」の章で「なかでも私が注目するのは、自然と深く結びついた世界観が美しい言葉で表現されていることだ。」と語る。ケルトの豊かな伝承譚そして詩人W.B.イエイツの国の人ならではの書か…。

* 『英語で味わう万葉集』 ピーター・J・マクミラン著 文藝春秋, 2019.12 (文春新書)