鶺鴒(セキレイ)は秋の鳥!?

総記

 9月に入っても猛暑日が続く京都。茹るような暑さの中、ふと気づけば二十四節気は処暑から白露へと変わり、9月12日には七十二候が第四十四候「鶺鴒鳴 (せきれいなく)」に移った。「セキレイが鳴き始める頃」というが … セキレイは留鳥で一年中その鳴き声を聞くことができ、私にとっては朝の目覚ましのようなもの。なぜに秋?

 日本野鳥の会『野鳥図鑑』によれば、セキレイは「スズメ目セキレイ科」の鳥で全長20~21cmくらい。日本でよく見られるのは 「ハクセキレイ Motacilla alba」 「キセキレイ Motacilla cinerea」 「セグロセキレイ Motacilla grandis」 の3種。留鳥で九州以北の河川や農耕地などの水辺を好み、鳴き声は種類によって微妙に異なるらしい。中でも 「セグロセキレイ」 は、長く日本固有種とされていたようだ。
 日本野鳥の会 京都支部の「鳥ビア」には「日本に生息する鳥についての最初の記録は『日本書紀』に登場するセキレイ」との紹介がある。確かに『日本書紀』神代巻の伊弉諾尊 (いざなぎのみこと)・伊弉冉尊 (いざなみのみこと) の国生みの段の別伝には次のようにある。
「一書曰 陰神先唱曰 … (略) …  遂將合交而不知其術 時有鶺鴒 飛來搖其首尾 二神見而學之 卽得交道」
 つまり「二神が男女の交わりの術を知らずに困っていると、そこに鶺鴒 (にはくなぶり) が飛来してその尾を動かした。それを見て二神は交道 (嫁ぎ (性交) の道) を得た」ということ。
 因みにセキレイの古名 「には (わ) くなぶり」 は、「には (わ)」=「俄 (庭とも)」、「くな」=「尻 (陰茎とも)」、「ふり」=「振る」から「庭で素速く尻を動かす鳥」といった意味のようだ。確かにセキレイを見ていると、スッと伸びた長い尾を上下に素速く何度も動かしている。『日本書紀』の故事や長い尾を上下にしきりに動かす動作などから、「トツギドリ」「ミチオシエドリ」「コイオシエドリ」「庭叩き」「石叩き」など多くの別名を持つ。英名 “Wagtail" もその由来は動作の様子なのだろう。

 古今伝授の三鳥「百千鳥」「呼子鳥」「稲おほせ鳥」のうち「稲おほせ鳥」は、「秋の稲刈り時の田に飛来する鳥」とされるがその鳥の実体は不明。その候補としてガン、クイナ、タマシギ、スズメなどと共にセキレイも上がっている。俳句でも、セキレイは秋の小鳥として三秋の季語 になっている。日本独自の暦「貞享暦」を作成した渋川春海は、中国伝来の「七十二候」を日本の気候や生物の実情に合った「新制七十二候」に改定している。そして第四十四候は「玄鳥帰」から「鶺鴒鳴」になり、宝暦暦以降も変わっていない。
 日本の「国生み」に関わった鳥として、古来より日本にいる鳥として、そして稲穂が実る季節に相応しい鳥としてセキレイが選ばれ「鶺鴒鳴」となったのかなと思う。

 いしたたき ちさきめうとの 頬を寄せて 啼くよ浅瀬の 白石のうへに 若山牧水

<参考資料>
 ・  「BIRD FAN」 公益財団法人 日本野鳥の会      ・ 「セグロセキレイ」 日本野鳥の会京都支部 website
・  『日本書紀』  (国文学研究資料館所蔵) 国書データベース
・ フリー百科事典 『ウィキペディア(Wikipedia)』      ・ 「暦Wiki」  国立天文台 website
・ 「きごさい歳時記」  季語と歳時記website