「玄鳥去」そして「中秋の名月」

総記,自然漫歩

 9月17日、暦は二十四節気「白露」の末候「玄鳥去」へと移る。「玄鳥 (ゲンチョウ)」はツバメを指す。「玄」には「くろ・くろい」の意味 (訓) があり (例えば “玄人 クロウト")、これで「つばめさる」と読む。また同時に「中秋の名月」でもある。

【ツバメのこと】
 春になるとフィリピンやマレーシアなどの東南アジアから海を渡って日本にやって来る夏鳥のツバメ。京都では、4月頃からあちこちの住宅の軒下で巣を作り、子育てをしている姿を見かけるようになる。独特の飛び方ですぐにそれとわかり「ああ、今年も春が来た」と感じさせてくれる。
 5月半ば、七条堀川の興正寺近くを歩いていた時のこと。七条通沿いのビルの駐車場内でツバメの巣を発見。中にはまだ小さなヒナがいて、親鳥が餌を運んで来るのを待っていた。こんな交通量の多い道路際、しかも鉄筋のビルに…したたかなツバメ。

 幼かった頃、祖父母の家にもツバメの巣があり、毎年春になるとどこからともなくやって来て産卵していた。いつも同じツバメが来るのかと思っていたが、別の鳥が空いている巣を直して使うこともあるらしい。祖父母は「ツバメは縁起の良い鳥だから、巣はそのままにしておくのだよ」と言っていたが、どうやらそれは根拠の無いことでもないようだ。農作物が成長する時期に害虫を餌として食べてくれたり、外敵から身を守るために巣を作る家は、ほどよく人の出入りがあり湿気の少ない環境の良い場所の証など。また、1繁殖期に2度産卵するものも多いことから、その繁殖力を家の繁栄に結びつける考え方もあったようだ。
 しかし、環境省の分布調査などによれば年々ツバメの数が減少しているという。日本野鳥の会では、その主な原因として ① 里山の自然や農耕地の減少 → 餌となる虫の減少 ② 西洋風家屋の増加 → 軒の無い家屋や壁面の加工により巣作りが困難 を挙げている。
 思えば、夕暮れ時に群れとなって宇治川のねぐらへと飛んでいくツバメの姿も見なくなった。そろそろ南へと旅立ち始めたのかな。

【暑い「中秋の名月」】
 今夏は猛暑日の日数が50日を超えた京都。夜になっても暑さはおさまらず、なんだか風情のない「中秋の名月」。ただ今年の満月の時刻は、9月18日11時34分で、「中秋の名月」=「満月」にはならないらしい。
 就寝前に夜空を見上げると、空高く上り始めた丸い月が煌々と輝いていた。満月かどうかは観測上の問題で、私にとっては「まあるいお月さま」で十分。数日前の夜、ずいぶんふっくらとしてきた月のすぐ近くに、一際明るく輝く星に気づいた。…「土星」。「中秋の名月」の明るさには負けたようだが、「ああ、土星もあの光の中にいるんだな」と思うと楽しい。微かな虫の音を聞きながら夜空を眺めていると、つくづく自然の偉大さを感じる。

 人間の経済活動や戦争による環境破壊が、地球温暖化を助長して自然の生態系をどんどん破壊している。「経済優先、経済優先」と政治家は盛んに叫ぶが、住みにくい環境を造っておいてそれが本当に人間の幸せになるのだろうか?

<参考資料>
 ・  『消えゆくツバメをまもろう』   公益財団法人 日本野鳥の会 website
 ・  『ほしぞら情報 2024年9月』   国立天文台 website