期待外れの延暦寺「釈迦堂特別公開」

京都・寺社

 比叡山延暦寺では、2024年が世界遺産登録30周年となるのを記念して、特別企画「西塔釈迦堂 秘仏本尊釈迦如来像特別ご開帳・内陣特別公開」が9月14日より12月8日まで開催されていた。これまでなかなか行けなかった延暦寺なので、この機会にと思い切って行ってみることに。
 叡電・叡山ケーブル・ロープウェイ・比叡山内シャトルバス・坂本ケーブル・江若バスのフリー乗車券に、比叡山延暦寺諸堂巡拝券がセットされた「比叡山フリーパス」が発売されていたので、今回はこのパスを利用して参詣。

<いよいよ “比叡のお山" へ!>
 往路は、出町柳で叡電に乗車。八瀬比叡山口からケーブル→ロープウェイと乗り継ぎ、比叡山頂に到着。今年は紅葉の始まるのが遅く、叡電の秋のイベント「もみじのトンネル」も当初は11月1日〜11月24日までの予定が、延長さらに再延長されて12月8日までに変更。混雑を避けたくて12月に入ってからの平日の参拝を予定していたが、出町柳駅は朝から賑わっていた。市原駅~二ノ瀬駅間の「もみじのトンネル」目当ての人が特に多いようで、鞍馬方面に向かう電車は、かなりの混み具合。

<ケーブル八瀬駅付近も大賑わい>

八瀬もみじの小径

 八瀬比叡山口からケーブル八瀬駅に向かう高野川沿いの森の中の遊歩道は、「八瀬もみじの小径」と呼ばれ、最近では紅葉の人気スポットとして賑わっているらしい。多くの人達が紅葉の中で思い思いに散策し、写真撮影を楽しんでいた。問題はケーブルとロープウェイ。どちらもほぼ満員状態で、特にロープウェイはケーブルよりも収容人数が少ないため、待つ人の列が続く。「平日でこれだから、休日はさぞかし凄いことになるんだろうな」とちょっと溜息。

 やっと「比叡山頂駅」到着。ぎゅう詰め状態のロープウェイから解放されたが、そこから今度は山道を6, 7分歩いて「比叡山頂バス停」に向かう。ロープウェイの「比叡山頂駅」から「比叡山頂バス停」付近には、東海自然歩道のコースがあるらしく、山道からは京都の街を見晴らすことができ、少しばかりハイキング気分。

<森の中の「西塔」>
 「比叡山頂バス停」からは、山内シャトルバスで 「西塔」 に。バスを降りると 「延暦寺西塔諸堂 参詣道」 と書かれた大きな特別公開用の門が真っ先に目に入った。門から先は緩やかな坂道。坂道を下った先の「巡拝受付」で拝観手続きを済ませてさらに進むと、二つ並んだ朱色の堂宇「常行堂」「法華堂」(にない堂) が見える。「いくら弁慶でも、この二つを持ち上げるのは無理だよネ」などと言いながらその先にある石段を降りる。

 

にない堂

西塔の本堂 「釈迦堂 (転法輪堂)」 (重要文化財) は、桁行七間の堂々たる堂宇で、入母屋屋根は下部が反り返った銅板葺。柱などの朱色が周りの木々の緑によく映える。貞和3 (1347) 年に建造された三井寺 (園城寺) の金堂 (弥勒堂) が、文禄4 (1595) 年に豊臣秀吉によってこの地に移築されたもので、延暦寺に現存する最古の建物。

 

<暗闇の内陣で … お像がよく見えない!!>

釈迦堂

 さて、どんなお釈迦さまにお目にかかれるのか?
 堂内の左手が入口、右手が出口となり、その先は暗幕で隠されている。暗幕を潜った先の内陣はほぼ暗闇。人が一人通れるほどの坂になった細い通路が設けられているが、足元も暗く些か不安を覚える。
 中央の厨子に祀られている釈迦如来像からは遠く、細部を拝見することなど不可能。“秘仏ご本尊 釈迦如来像 (重文指定) " は、鎌倉時代作の「清凉寺式」だった。見慣れた清凉寺の釈迦像に比して小ぶり (像高79.3cm) で、細身の像。脇侍には向かって右に文殊菩薩騎獅像、左に普賢菩薩騎象像の「釈迦三尊形式」。両脇侍は、ライティングのせいか金色がまぶしくて像容がよく見えない。御本尊よりさらに後の時代に造像されたもののようにも思われる。
 さらに「釈迦三尊」を囲むように「般若十六善神」が左右に八躯ずつ安置され、向かって右に「玄奘三蔵」、左に「深沙大将」も加わる。彫像で釈迦十六善神をあらわした実作例は少ないという。また、入口から出口にかけての四隅には、「持国天像」「梵天像」「帝釈天像」「増長天像」。そして各像の間に「文殊菩薩」「八所明神」「不動明王」「山王七社」「元三大師」を祀る祠あり。

<期待外れな「特別拝観」>
 以上、前回 (2017年) の特別拝観に参詣された方のブログを参考に思い出してみたが、なにしろ闇夜のような中での拝観、しかも内陣案内のリーフレットなども無い状態でなんとも心許ない。どうやら今回は『DANDELION』プロジェクトというタンポポの綿毛が飛ぶプロジェクションマッピングをメインにしたかったらしい。しかし、内陣・仏像拝観を楽しみにしていた者にとって、やたらに派手で拝観の妨げとしか感じられない流行り物の演出は逆効果。… ということで、期待外れな「特別拝観」の暗闇からは早々に退散。

色づく山並み

<ひとつふたつ … 疑問が残り…>
 ところで、奝然が “清凉寺" の「生身の釈迦」像を宋よりもたらしたのは永延元 (987) 年頃。一方延暦寺では、釈迦堂の本尊 釈迦如来像について「伝教大師最澄のご自作とされる御本尊」と説明している。しかし、最澄は弘仁13 (822) 年に入滅しているので、彼が清凉寺の釈迦像を見ることはあり得ない。ではなぜ秘仏本尊が「清凉寺式」なのか?しかも延暦寺が、清凉寺に釈迦如来像を安置することを反対したため、奝然は願いが叶う前に没している。今回拝観した延暦寺の釈迦像は、鎌倉時代のものらしいし …。最澄自作の釈迦像は実在したのか?実在したのなら、その後どうなったのか?このあたりの矛盾について寺は黙して語らず。

琵琶湖眺望

 また、今回のNAKEDのプロジェクションマッピングに関しても些か引っかかる。タンポポの花言葉は、花の時期は「幸せ」「真心の愛」など。しかし綿毛になると「別離」「別れ」に変わる「分断の時代に平和への祈りで世界を繋ぐネットワーク型のアートプロジェクト」なる謳い文句との間には、微妙な違和感。そもそも寺院なのだから、蓮の花とか宝相華などの方が相応しいようにも思われるのだが …。

 

<紅葉の美しさで「口直し」>

ケーブル坂本駅前

 興味もない自己満足的なイベントに付き合わされた感を抱きつつ、西塔を後にして東塔地域へ向かう。比叡山も今年は紅葉の時期が遅いようで、色づいた山の景色や陽光に煌めく紅葉の美しさは、格好の「口直し」となった。帰路はケーブル坂本で下山。ケーブル坂本駅前の見事なグラデーションを見せる紅葉に、やっと心も晴々!!

 

 

【参考資料】
・  比叡山延暦寺 website 及び「延暦寺三塔巡拝マップ」
・  「木造釈迦十六善神像」    正圓寺ブログ
・  「比叡山延暦寺の釈迦堂内陣特別拝観・秘仏特別公開2 2017/10/10」  のーとくんさん