般若寺の冬を彩る花たち

奈良,自然漫歩

 初夏の紫陽花や秋のコスモスで知られる奈良の「般若寺」に、一月末に訪れてみた。近鉄奈良駅からバスで12分ほどの住宅街で、「般若寺」 はひっそりとその長い歴史を刻んでいた。
 飛鳥時代、高句麗僧慧灌法師がこの地に寺を建てたのが始まりという古刹。京都から奈良への要路にあったので、治承の南都焼討で伽藍は灰燼に帰し、以後は栄枯盛衰を経て現在も再興中。

 

 バス停から少し北に歩けば、空に向かって聳え立つ 「十三重石宝塔」 (鎌倉時代, 重文) が 「般若寺」 へと導いてくれる。拝観受付を入ると、ほぼ正面に 「本堂」、左手に国宝の 「楼門」、そして右手にシンボル 「十三重石宝塔」。豊かな樹々に囲まれた境内には、数えきれないほどの石仏が点在し、その傍らにはまるで供花のようにスイセンが乱れ咲く。

 


 西側の 「鐘楼」 そして 「地蔵堂」 の辺りには、サザンカが見事に赤い花を咲かせている。まるで本堂を護るように祀られた 「西国三十三所観音石仏」 を眺めながら本堂前まで来ると、ソシンローバイが今が盛りとばかりにとてもきれいに咲いていて、スイセンとともにほのかに甘い香りを漂わせている。また本堂階段横には、スイセンの花が色とりどりのグラスに活けられて… そう、スイーツかカクテルのよう!植栽されているスイセンは、古来より親しまれてきた房咲きの「ニホンスイセン」と、八重咲きの「チャフルネス」の二種で、その数3万本ほどだそうだ。

  ひとひらの 雪舞い下りて 水仙花 石の仏と 肩よせ微笑う (畦の花)

 楼門近くでとてもきれいなピンクの花を咲かせている木があるのに気づき近寄って見ると、「檀 まゆみ」と書かれた名札が掛けられていた。よく見れば花と思ったのは果実で、ピンクの果皮の割れ目から丸く赤い実 (?) が顔を覗かせている。葉はすっかり落ちていたが、初めて見る檀の果実は冬景色のステキなアクセント!

楼門とマユミ

 <マユミ (檀・真弓)>
 ニシキギ科ニシキギ属の落葉低木または高木で、北海道から九州各地の山野に自生。木の質が緻密で粘りがあることから、昔はこの木を用いて弓が作られ、そこから「真弓」と呼ばれるようになったと言われる (「真 ま」は弓の美称)。また奈良時代には、「檀紙」という和紙の原料にもなっていたが、平安時代に楮 (こうぞ) に取って代わられた。
 開花は5〜6月頃で、淡い緑色の小さな花が咲く。新芽は山菜として食されるが、果実は有毒で、少量でも吐き気や下痢を起こすので注意が必要。

マユミの果実

 『万葉集』にもマユミを詠んだ歌が残されている。
  白真弓 石辺の山の 常磐なる 命なれやも 恋ひつつ居らむ
       (巻11-2444  柿本人麻呂【柿本朝臣人麻呂之歌集】)

 時折雪のチラつく寒い日だったが、境内ではあちらこちらで庭の手入れをされていた。ボランティアの方達もいらっしゃるようで、地域に溶け込んだお寺という印象を受けた。訪れる人達も皆静かにそれぞれの時間を楽しんでいるようで、心落ち着くお寺。

<参考資料>
・ 「庭木図鑑 植木ぺディア」       ・ フリー百科事典 「ウィキペディア」
・ 『生薬ものしり事典 110』   (「月刊元気通信」  Yomeishu )
・ 「万葉百科」  奈良県立万葉文化館